日本改造法案は民主革命のバイブルという事になる!?

はじめに

北一輝の『日本改造法案大綱』は、大正8年8月、上海の客舎で書かれた。

北の36歳のときである。

これは『国体論及び純正社会主義』の理論を実践する具体的行動の指針ともなりうる

著作である。

そういう意味では、関連性があり、北の政治思想は首尾一貫している。

 

『国体論及び純正社会主義』と『日本改造法案』の原理的関連

「純正社会主義」論の核心ともいうべき私有財産権の基本的擁護と部分的制限という

根本方策は、すでに『国体論及び純正社会主義』において原理的に措定され、

後年の『日本改造法案』でもそのまま継承されさらに具体化されるに到る。

『国体論及び純正社会主義』と『日本改造法案』との原理的関連を彼の

「社会主義」論において証示するためにも、ここで『日本改造法案大綱』および

その基本的原型をなす『国家改造案原理大綱』における私有財産制の問題について、

とりあげておかねばならない。

まず北は『国体論及び純正社会主義』におけると同様、それより13年後に執筆された

『国家改造案原理大綱』においても、私有財産権の問題をあくまで個人の自由独立の
問題として把握している 。

そうして北は、自己の「国家社会」改造案を根底的に貫く原理的立場は、

私有財産権を否定することではなく、それを全国民に保障し享受させるところにこそ

ある、と明言している 。

北はこのような私有財産承認の立場を、あくまで『国体論及び純正社会主義』で

確立された「純正社会主義」の根本原理である独自の見解から、理論的に

根拠づけている。すでに示したように北が私有財産権を基本的に承認したのは、

「社会主義」すなわち「社会国家」の利益を追求する立場からであり、

したがってそれは、あくまで全国民の普遍的な権利でなければならなかった。

とすれば、現時社会におけるが如き大多数の国民を無所有に放置せしめたまま

少数特権者のみが巨額の私有財産を独占している状態は、

まことに「経済的戦国時代」ないし「経済的封建制」とでも呼ぶにふさわしく、

即刻改造されねばならぬ、何となれば、このような少数特権者こそ「国家社会」の

「経済的統一」を著しく破壊しかねない最大の要因に他ならないからであって、

これに対しては、まさに「国家社会」を第一義とする立場から、

当然厳格なる「私有財産限度」を適用せねばならない 、ということになる。

資本とりわけ大資本たるツラストは、何よりも長年に亘って蓄積された

社会的生産の産物である故に、「国家社会」の管理・経営の下に

移行されるべきである、というのが『国体論及び純正社会主義』で打ち出された

実践的見地に他ならなかった。『国家改造案原理大綱』および

『日本改造法案大綱』ではかかる実践的見地はさらに具体化され、

文字通り「国家社会」の「改造法案」として政策化されるに到る。

ここでまず問題になるのは、「限度」以下の大・中・小資本とりわけ小資本の

認容についてであるが、これはすでに検討した私有財産の場合と同様、

「純正社会主義」の見解からすればむしろ必然といってよい。

すなわち小資本に限っては、もっぱら個人の経済的自由独立の問題として

処理されるわけである。

 

日本国家の公民国家としての理念

以上要するに北が『国体論及び純正社会主義』で確立した原理をしかと携えて、

『国家改造案原理大綱』(『日本改造法案大綱』)で提示した

「大資本ノ国家統一」における大資本の国家統制案は、

何よりも「小資本」の承認・保護と巨大な国家資本の創出という、

あくまで資本制の本質的擁護のために、またそれを前提としたうえで

発案されたものに他ならない、ということである 。

周知の如く北一輝が「日本革命」とりわけ日本「国家社会」の政治的改革の

具体的・政策的指針と展望を提示したのは、『日本改造法案大綱』中

「巻一 国民ノ天皇」においてであった。

この「巻」は内容的にいって、日本「国家」の政治的改革に関わる部分と、

その実践方式を規定した部分とから構成されている。まず前者からみていくと、

それはさらに天皇に直接関わる部分と国民に関する部分とに分かれるが、

いずれもすでに『国体論及び純正社会主義』で提示された日本国家論上の

根本見地を十分にふまえたうえで、構想され具体化されたものに他ならなかった。

すなわち『日本改造法案大綱』では、まず「天皇ノ原義」として

「天皇ハ国民ノ総代表タリ、国家ノ根柱タル原理主義ヲ明カニス。」と

明記されているが、これは北の天皇機関説の別様の表現以外ではない。

また、これに附されたる「註」においては、日本国家の歴史的進化段階に対応して

天皇もまた同様の歴史的進化段階を経過しているとして、

すでに『国体論及び純正社会主義』で提出した日本国家の歴史的進化段階と全く

同一の見地を書きつけている 。さて、天皇に関わる北の制度的改革案は、

次の二点に収斂される。すなわち第1に「宮中ノ一新・華族制廃止及び貴族院廃止」 、

第2に「皇室財産の国家財産への移管」 である。まず以下に第1の点について述べる。

かの維新革命によって中世の経済的家長君主たる貴族・諸侯階級が一掃され、

天皇はその家長君主としての性格が根本的に止揚せられて、国家の最高機関としての

位置を確立せしめたと解釈する北にとって、華族制並びに宮中の存在、

したがってまた貴族院の厳存は、依然たる中世的遺物の残存としか

映じなかったはずである。

しかし北にとってさらに重要なことは、かかる中世風の特権階級が、

天皇と国民との間にあって両者の国家的統一を著しく妨げ、しかも資本家という

新たな経済的家長君主と結託・融合して、一般国民を搾取し抑圧する元凶だという

点であったろう。

華族制・貴族院の廃止と宮中ノ一新という、当時にあって徹底的な改革案は、

かくして必然化されたのである。次に第2の点であるが、北にあっては、

維新革命以後の天皇は、あくまで国家によって承認された国家機関つまり

制度としての天皇として位置づけられたと解されたから、天皇の一切の活動は

当然国家的活動であり、そのために必要とされる諸経費すなわち皇室費は、

すべて国家によって賄われるべきであって、皇室財産といった天皇個人が

私有せる財産は、全く必要ではないということになる。しかるに現実には膨大かつ

莫大なる皇室財産が存在するのは、他ならぬ天皇がいまだ中世的な家長君主としての

性格を克服していないことを示すもので、維新革命によって打ち立てられた

日本国家の公民国家としての理念と真向うから矛盾・背反するものである。

それ故、皇室財産なるものは、上述のような天皇の国家的性格を考慮して、

当然国家の所有へと返されねばならぬ。

すでに紹介したように北一流の日本国家論においては、

国民は天皇を頂点に戴いて共に「公民国家」を構成する主体に他ならぬとされた。

そこで北は、まず中世的階級国家の如き観を呈している日本国家の兇態を正すため、

天皇の国家機関としての原義を高唱して、華族制に象徴される中世的政治勢力の

一掃を図り、次いで、国民を公民国家の理念にふさわしい国家の主体的

担い手たらしめるべく、いいかえれば公民国家の国体と民主国家の政体を

二つながらに実現すべく、国民の政治的権利の広範かつ徹底的な拡大を大胆に

提唱するに到ったのである。すなわち国民の政治的権利のなかでも、

最も重要な政治的参加の権利としての普通選挙権が、納税資格の問題などとは

全く関係なしに、当然の「国民ノ権利」としてまず提起されている 。

すでにかなり詳しく論究しておいた如く、北一流の社会(個人)観に従えば、

個人の自由独立は国家社会の幸福進化という大目的のため、国家社会という

大わくのなかで、最大限に許容され保障されねばならないとされた。

国民各自の経済的権利については、第4節で具体的に論じるが、

今とりあげている政治的自由の問題も、北にあっては当然かかる社会(個人)観から

解決されている。

すなわち北において国民の政治的自由は経済的自由の場合と同様国家的大わくのなかで

最大限に許容・保障されるべきとされたから、かかる政治的自由を著しく拘束してきた

現時の諸法律とりわけ「治安警察法」・「新聞紙条例」・「出版法」等は、

当然廃棄されねばならないというわけである。またこれは北自身の経験によっても

裏うちされていた。

とりわけ最後に「出版法」と附け加えられているところに、かつて若き革命家としての

情熱と精魂をこめて書きあげ、やっとのことで自費出版した

『国体論及び純正社会主義』が、発刊直後(10日後)内務省によって

発禁処分にされたことへの激しい憤りを看取することができる。

 

最後に

上に一瞥したところからも明らかな如く北の政治的改革案には、

あらゆる点に於て維新の理念から外れた誠に憂慮すべき現時の日本国家を、

主権が国家(国民)に存する公民国家の国体に対応した民主政体たらしめるべく、

かなり徹底したラディカルな民主主義化の基調が、貫徹されているといってよい。

特に旧来の各種閥族権力機構に代る新たな権力機構への、国民主体の参加の方向性が

打ち出されている ことは、注目すべきであろう。

北の政治的改革綱領全体を貫く基調が、各種閥族によって支配された

日本国家のラディカルな民主主義化にあったことは、

すでに青年期に構想され体系化された北の政治思想的特質と

対応したもの(正確にいえば、密接不可分の思想的及び理論的な脈絡・

連関性をもったもの)として、ここでしかと銘記されるべきなのである。

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