博士論文要旨

 

本論文の目的は、北一輝の三部作を総合的に分析し、彼の思想の根幹を追求するものであるが、

その思想の根幹を社会主義の一類型である「純正社会主義」 と判断する。

北の思想の根幹である「純正社会主義」は、

彼独特の社会進化論に基づいた理想的な社会像であり、当時の日本の明治国家が、

「公民国家」として進展し続けて到達しなければならない国家発展の最終段階の社会像であった。

日本の歴史の流れの中で国家は、古代から中世貴族国時代までは、

国家の「生存進化」の目的が意識されない「家長国」という国体であり、

「維新革命」後は、国家のすべての部分が全部である国家の「生存進化」の下に行動する

機関となり、なおかつ国家が主権を持つ「公民国家」という国体となったと主張する

北は社会と個人を有機体と器官に置き換えて、人類社会の生存進化を追求する点から、

個人に対する社会の優位性を強調するのである 。

その際、北は個人を社会の中に埋没させ、溶解させるのではなく、

国家・社会の進化発展のために、個人の自由独立が最大限に保障される必要があると

主張するのである 。

それ故、個人個体の自由な生存競争が社会進化の原動力なのである。

国家・社会という大枠に規制されながらも、個人としての自由と独立を最大限に保障する のが

北の「純正社会主義」の根幹であると言える。

北は、人間社会も他の生物種族と同様の「一生物種族」であると断じ、

それ故、人間社会も進化していき、社会の究極目的は「社会進化」であり、

最終的には全人類から構成される理想社会が実現するという楽観論に立脚するのである。

ここで北は、「純正社会主義」はこの進化の一段階であり、これまでに到達した中では、

最高の段階であると考えた。

ここで北は、社会が以上のような「純正社会主義」に進化するための欠かせない要件として、

個人の自由平等の達成をあげた。そして北は、この要件を満たすために、

社会における個人の経済的平等や独立が必要だったのである。

このような「純正社会主義」の社会を目指した北一輝は、

近代国家として現われた明治国家が、「公民国家」から遊離して「中世的貴族国家」に

「逆倒」していくと考えたのである。そのような「逆倒」の象徴であり

社会的矛盾であるものとして北が強調したのが、「官吏万能主義」、

階級構造による貧富の懸隔、「偏局的社会良心」、「偏局的個人主義」などである。

つまり北一輝は、当時の「偏局した」日本社会を、

上記のような政治・経済・社会的矛盾を解決することによって、

彼の理想的な社会として構想する「純正社会主義へ」という

社会進化の軌道に引戻そうと試みたのである。

以上のように、北の思想の根幹である「純正社会主義」は、

主に、 国家・社会・個人 それぞれの関係や役割をめぐって説明される。

つまり、北の思想の根幹である「純正社会主義」を正しく理解するのに、

彼の三部作の中での国家・社会・個人のそれぞれの役割や互いの関係を

明らかにするのが欠かせないことになるのである。

ここで、北一輝の思想の前提を明らかにする必然性は、

彼の全体の政治思想の輪郭と本源性を浮き彫りにすることである。

その際、論文の課題として、3つのポイントを挙げたい。

それは、前述したように国家・社会・個人である。

これらのポイントは、北一輝の代表的な3つの著作の中で一貫して、

その底流に遊弋しているモチーフであると推量できる。

彼の思想の根幹である「純正社会主義」も、前述したように、

国家、社会、個人それぞれの役割や互いの関係を中心に論じられるのである。

故に、3つの媒体は彼の思想の根幹を窮めるのに有効なものである。

この大前提は彼の処女作である『国体論及び純正社会主義』をはじめ

最後の『国家改造案原理大綱』(『日本改造法案大綱』)までの骨格をなすものである。

従って、本論は北一輝の三部作すべてを、この3つの媒体を通じて論じ、

彼の思想の根幹である「純正社会主義」が何であって、

また「純正社会主義」がどのように一貫しているかを追究することを目的とする。

このような分析は、北一輝の政治思想の真相を明確にする試みでもある。

ところが、北の思想についての従来の研究は、様々な観点から行われている。

それらの観点は、主として、アジア主義の観点、ファシズムの観点、社会主義の観点、

国家社会主義の観点という4つのカテゴリーに分けられる。

ここで本論を通じて究明される北の思想の根幹というものは、

これらの従来の研究や観点の中で収斂されるものであるかどうかを試みた。

『国体論及び純正社会主義』の著作の考察

北の三部作を考察するにあたって、まず、『国体論及び純正社会主義』の著作の考察では、

北一輝の政治思想の根幹になる「純正社会主義」を説明しており、

国家システムにおける国家、社会、個人のあるべき姿を提示している。

この面でこの著作からは、北が目指した「公民国家」における国家の役割や、

社会と個人のありかたがどのようなものであったかがわかる。

『支那革命外史』の考察

次に、『支那革命外史』では、主に北一輝の国家観を明確に見ることができる。

特に日本や中国をめぐる緊迫する国際情勢の中で、彼の主張する日本の取るべき外交戦略とは、

当時の日本の権力者たちとのそれとは異なる点が多い。

その違いは彼独特の国家観であり、彼の「純正社会主義」における国家観を浮き彫りにしている。

その違いから彼の中国革命の参加の理由や彼の『支那革命外史』を書いた目的を

適切に説明することができる。

『国家改造案原理大綱』(『日本改造法案大綱』)の考察

最後に、『国家改造案原理大綱』(『日本改造法案大綱』)では、

偏局していた当時の国家システムをたてなおすための、国家、社会、個人の役割や諸権利、

あるべき姿についての実践方案を述べた著作とも言える。

この著作をこのような観点から見る事で、

彼の政治思想の本義と彼の政治的活動を正確に理解し、政治思想的に評価することもできる。

ABOUTこの記事をかいた人

長年教育の場で、働いてきました。 前半は、日本の小学校で、 後半は日本の高校、日本の大学、 中国とベトナムの大学で日本語教師という風に! 今年2018年6月に日本に帰国しました。